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RAG × Logic Apps:AIとワークフローを連携させる最小構成ガイド
― 現場に負担をかけず、ナレッジを循環させる仕組みの作り方 ―
RAG(Retrieval-Augmented Generation)と Logic Apps を組み合わせることで、
組織が持つ文書や判断履歴を活かした“動的な業務プロセス”を自動化できる。
この構成は、既存のシステムを置き換えるものではなく、知識を動かす中間レイヤーとして機能するため、
小さなスコープから安全に始められるのが最大の特徴である。
結果として、判断の属人化を減らし、「情報の流れ」と「行動の流れ」が一致する組織運営を実現できる。
1. なぜ今「RAG × ワークフロー連携」が注目されているのか
AI導入が進む一方で、生成AI単体では「どの文書を根拠に答えているか」が不透明であり、
実務の現場では再現性・説明責任・統制の課題が残る。
RAGは、組織内文書やFAQ、マニュアルなどの信頼できるデータソースから回答を生成することで、
AIの出力に“業務的な根拠”を持たせる技術として注目されている。
しかし、このRAGを現場で活用するには「誰が、どのタイミングで、どんなAI回答を使うのか」という
ワークフローの設計が不可欠。
ここにMicrosoft Logic Appsを組み合わせることで、
AIが業務プロセスの中で自律的に機能する“動的な仕組み”が構築できる。
2. RAG × Logic Apps の最小構成モデル
実装を始める際に必要な要素は以下の通り:
コンポーネント | 役割 | 使用例 |
---|---|---|
Azure AI Search | 検索インデックスの作成・管理 | 社内文書、FAQ、議事録のベクトル化検索 |
OpenAI API(またはAzure OpenAI Service) | 回答生成 | RAGによる根拠付きテキスト生成 |
Logic Apps | フロー制御・外部接続 | 部門間承認やレポート生成の自動化 |
SharePoint / Dataverse | データストア | ナレッジや文書の保存・更新 |
Teams / Outlook 連携 | ユーザーインターフェース | 質問・承認・通知のトリガー |
これらを最小構成でつなぐことで、
「社員がTeams上で質問 → RAGが社内文書から回答 → 承認ルートへ通知 → 自動レポート保存」
という一連の流れを数日単位で構築できる。
3. 現場導入のステップ
① 対象業務の選定
・FAQ対応、承認、報告書レビューなど、判断の根拠が文書にある業務を選ぶ。
② データの整備
・古い文書・重複を排除し、RAG用にテキスト化。
③ Logic Appsで接続設計
・「質問→検索→生成→承認」のプロセスを定義。
④ テスト運用
・小規模部署でトライアルし、回答精度・レスポンスを検証。
⑤ 運用・改善
・生成内容のレビューを通じ、社内ナレッジの品質を向上。
4. 既存システムとの共存
装舎の導入事例では、既存のPower Apps・SharePoint・Teamsをそのまま活かした上で、
Logic Appsを“中間制御層”として導入している。
この方式により、既存の基幹システムを改修せずに、
AI連携を“追加”するだけで段階的な自動化が可能となる。
これが「現場に負担をかけずに導入できる」最大の理由である。
5. 効果と展望
属人化の解消:AIが文書根拠を参照するため、判断プロセスを共有化できる。
知識の継承:退職や異動があっても、過去の判断・手順がRAG経由で再利用可能。
説明責任の強化:出典情報を明示するため、監査や対外説明にも耐えられる。
導入コストの最適化:既存Microsoft環境を活かし、PoCから本運用までスムーズに拡張できる。
このモデルは単なる自動化ではなく、「知識と業務を接続するインフラ」の構築である。
その第一歩を、Logic Appsが最小構成で支える。
まとめ
RAGとLogic Appsの連携は、AIを“使う”のではなく、“組織の知恵を流す”ための技術です。
一度動き出したワークフローは、人が変わっても知識が循環し続けます。
装舎は、この「動く知識の仕組み」を各組織に合わせて設計・導入します。