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Azure OpenAIを使う前に知っておきたい、業務シナリオの作り方
Azure OpenAIの導入効果は「プロンプトの工夫」ではなく、業務シナリオ設計の精度によって決まります。
AIを導入する前に、どの業務プロセスで・誰が・どんな意思決定を行うのかを明確にモデル化することで、AIが“使える道具”から“組織機能の一部”へと変わります。
この「業務シナリオ設計」は、装舎が提供するAI×業務プロセス設計の根幹であり、AI実装の成功と失敗を分ける最初のステップです。
1. Azure OpenAIは「汎用AI」ではなく、「設計して使うAI」
Azure OpenAI Service(GPT系モデル)は、ChatGPTのように誰でも使えるツールではありますが、企業や行政の業務環境では“設計された使い方”が必須です。
理由は2つあります。
① コンテキストの明示が求められるため
業務は、前提条件(ルール・目的・依存関係)が明確でなければ正しい判断ができません。
AIも同様で、「何を目的に」「どんな判断を支援するか」をプロンプトで明示しないと、精度は著しく低下します。② データ連携・権限設計が前提になるため
Azure OpenAIはPower Apps、Logic Apps、Dataverse、SharePointなどと連携することで真価を発揮します。
単体で使うのではなく、既存業務フローや社内システムの構造と整合した形で組み込むことが鍵です。
2. 業務シナリオ設計の出発点は「誰のどんな判断を支援するか」
装舎が重視するのは、「AIで何を自動化するか」ではなく、
“どの判断や行動を支援するか”という設計軸です。
以下の3ステップで、業務シナリオを具体化していきます。
【Step 1】判断プロセスの可視化
まず、「承認・報告・判断」などの業務をプロセス単位に分解します。
各ステップで「誰が、どんな情報をもとに、何を判断しているか」を洗い出します。
【Step 2】判断を支える情報構造の定義
AIに参照させるデータの範囲を定めます(例:FAQ、報告書、マニュアル、取引履歴など)。
これを**RAG構造(Retrieval Augmented Generation)**に落とし込み、社内情報から安全に回答生成できるように設計します。
【Step 3】プロセスへの統合
Power AutomateやLogic Appsを用い、
業務プロセス内でAIが「提案→確認→判断支援」する流れを構築します。これにより、AIは単なる回答装置ではなく、業務連鎖の一部として機能する“知的サプライチェーン”になります。
3. 実際の設計でよくある誤解と失敗例
AI導入がうまくいかないケースの多くは、以下の誤解に起因します。
誤解 | 実際の課題 |
---|---|
ChatGPTのように使えば業務でも動く | → 組織データを参照しないと“それらしい回答”しか出ない |
プロンプト設計で精度が上がる | → 本質は業務構造とデータ構造の整合性にある |
部署ごとに導入すれば効率化できる | → 部署間で“AIに見えている情報”が異なり、判断が分断される |
つまり、AIは単体導入ではなく、業務シナリオという骨格設計の上で初めて有効に動くということです。
4. Azure OpenAI導入前に整えるべき3つの設計資料
装舎では、導入前に次の3つの資料を設計段階で用意します。
これらを作成しておくと、AIの開発・検証・改善がスムーズに行えます。
設計資料 | 目的 | 具体例 |
---|---|---|
業務プロセスマップ | 人とAIの分業設計 | 承認フロー、報告フロー、問い合わせ対応フロー |
判断構造マトリクス | AIが支援すべき判断領域を明確化 | 条件分岐・判断基準・参照情報の一覧化 |
データリファレンス構造図 | 参照元データとRAG構造の整理 | Dataverse・SharePoint・Teams・社内DB など |
5. 導入の本質は「AIの導入」ではなく「業務知の形式化」
装舎のアプローチは、AIそのものを導入するのではなく、
人が積み上げてきた“業務知”を形式化し、AIが参照できる形に整えることです。
これにより、
経験や勘に依存していた判断を再現可能にし、
部署や人を超えて、知識を共有しながら継承できる組織を作る。
その結果、AIは「業務を効率化する装置」から、
「品質と判断を支える基盤」へと変わっていきます。
まとめ
Azure OpenAIを導入する前に最も重要なのは、
“どの業務にどのように関わらせるか”という設計を明確に描くこと。
装舎はこの設計段階から伴走し、
業務構造を可視化し、データ構造を整理し、AIが安全かつ有効に機能する土台を構築します。
AI導入は「技術の話」ではなく、
組織の知をどうつなぎ、未来へ引き継ぐかという経営デザインの話です。